BLOGブログ
日々の習慣、エスプレッソと味わえる -日本で感動したナポリ料理の話-
皆様、こんにちは。
8月が終わるとすぐにミラノへ出張していたためブログの方がご無沙汰してしまいました。
さて、今年も8月後半に日本らしい大変短い夏休みを取らせていただきました。イタリア時代の3週間とは大きく異なり、休めたような休めなかったような、あっというまの5日間でしたが、小さな子供もいないので、家族と一緒にイタリア料理店探訪などをして、優雅とは言えませんが結構有意義で豊かなお休みを過ごせました。
朝はいつもより1時間ほど遅く起き、できたてのブリオッシュ(パンオレザン)にフルーツ、無糖ヨーグルト等を、モカで淹れたボルボーネコーヒーでつくるカフェオレと一緒にいただいたりしておりました。ドリップ式コーヒーメーカーで淹れる国産豆のコーヒーを飲みながら買い置きしておいたビスケットを頬張るという普段の朝食よりは、はるかに豊かなイタリアンーフレンチ風の朝食をとり、その後は午前中いっぱいジョギング。お昼には、もずくに納豆、鮭や鯖の塩焼きに麦飯、みそ汁といった純和風の食事、午後は映画鑑賞や家事手伝、家の買い物等をしてから、晩は家族と評判のピッツェリアやトラットリアを訪問して1日を終わるといった在宅型休暇を日々楽しみました。
今はこんな風に外食をしてイタリアンを楽しんでいますが、イタリア駐在から帰国した直後は、もう十分という思いもあって、3年くらいイタリア料理から遠ざかった生活をしていました。そんな中、駐在時代に、週末だけは家事から解放されたいという家族と日曜の晩に食べていたピッツァと、日々の習慣になってしまったエスプレッソだけはたまに禁断症状がでて、帰国直後も評判の店を探したりしていました。
前のブログでも言及しましたが、家からやや離れたところでジョギング中に偶然発見したのがプリモディーネというバール。カウンターで立ったままいただくエスプレッソならなんと150円、それもへたなミラノのバールよりもよほど丁寧で質の高い、しかも好みのナポリスタイルのエスプレッソを提供してくれます。そして、家族と共に食べに行くピッツァですが、帰国後家族が忘れないようにと再び勉強を始めたイタリア語の先生が推薦して下さった学芸大のピッツェリアがかなりナポリっぽくて気に入り、週末は頻繁にお邪魔していたのですが、しばらくして閉店してしまいました。
さあ困ったと言う時に、別の在日イタリア人でかなり食通な友人が薦めてくれたのが白金高輪にあるタランテッラダルイジというピッツェリア・トラットリアでした。
仕事の会食でイタリア料理店へ行くこともありましたが、多くのお店はイタリアで食べる日本食の逆バージョンの様な、似て非なるクオリティが殆どでした。 が、ここは食通のイタリア人が薦めるだけのことはあり、当初の目的であったピッツァは、まずメニュー内容が素晴らしく、マルゲリータやマリナーラは当然ですが、ブロッコリとサルシッチャ、ペペロナータにナスやズッキーニ、フリアリエッリまでが盛られたオルトラーナ等、ミラノでも滅多に食べられないようなナポリらしいピッツァがぎっしりと書かれており、そのお味も、ナポリの風味を知り尽くしていなければ出せない下ごしらえがされた、まさに本物でした。ミラノでここのクオリティに匹敵するピッツェリアは数えるほどしかないでしょう。
料理のメニューも実に刺激的で、ちょっとしたスナックのフリッタティーナディパスタ、ズッキーニのスカベッシュやタコのルチアーナといった豊富な冷温前菜に加え、スパゲッティアッラネラーノ、パスタエファッジョーリやズィーティアッラジェノベーゼ等々のかなり奥深いナポリ料理がこれまたぎっしりと書かれています。いや、たとえ書かれてなくても言えば出てくる感じです。
ナポリまでわざわざ行かなければ出会えないような味をまさか白金高輪で口にするとは思ってもみませんでした。 ピッツァを食べに訪れていましたが、あまりに懐かしく魅力的なメニュー内容につられ、いつしかピッツァは料理にかわり、普通は前菜とプリモかセコンドの2皿で終わらすところ、欲張って3皿全てをいただいてしまいます。
お皿に盛られた料理の姿、香り、味、ボリュームと全てがナポリ然としていて味わい深く、お腹いっぱいの苦しさまでもがナポリにいるような、そんな食事をいただけます。
日本食に出汁があるようにナポリ料理にも独特な風味があります。 それがしっかり具現化されたタランテッラのリアルな味に圧倒され、ピッツァを食べに行くはずが、結局料理を注文してしまう状況が続いています。
わずか半年程度、いや、人によっては2年3年イタリアに滞在しても見えない、紙に書かれたレシピを見ただけでは判明しないような何かをしっかりと吸収し得ているナポリ料理と申しましょうか。旺盛な研究欲や探究心、シェフ本人のセンス、味覚の良さ、優秀な師匠との忍耐力ある関係の構築、現地に根付いた生活体験といったものがなければ到達し得ないレベルの料理をタランテッラで味わった次第です。
ナポリに仕事で行く度に通ったリストランテやトラットリアで鼻にした美味そうな匂いや感動的な味わい、そんなものとの再開を白金高輪で果たしたのです。
あるイタリア人シェフの友人によれば、料理の出来栄えはちょっとした隠し技を施しているか否かで決まるなどと言っておりました。
イタリア料理におけるそんなひと手間、ふた手間の技を見落としたままイタリアの国旗を掲げているお店が日本では大半(失礼)だと思っていただけに、タランテッラは本当に嬉しい出会いでありました。手書きの料理名でぎっしり埋まったメニューはお腹の好奇心をそそるものばかりで、1回の食事でそれら全てを味わえるはずもなく、結局何度も戻ってくることになります。気がつけば、遠のいていたイタリア料理が再び身近なものになっていました。
今、日本のイタリア料理探訪を楽しんでいるのも、自分の場合は全てここからスタートしたと言えます。ここのレジ脇に置いてある複数のショップカードを見て、同様にハイレベルなお店が数多くオープンしていることを教わりました。類は友を呼ぶで、今日通うイタリア料理のお店の多くはこちらにあったカードで知ったところがほとんどです。タランテッラは、日本で真のイタリア料理に出会えるイタリア料理店、そして、現地にあっても人気を得られそうな価値あるお店の情報発信拠点と言えます。
2013年の春にナポリの友人からボルボーネのコーヒー豆を日本に紹介して欲しいと頼まれ困惑していた時に、まずはプロのご意見をと思い、プリモディーネの芹沢氏とタランテッラのオーナーシェフ寺床氏にサンプルを持ち込み、試飲をお願いしました。かたやエスプレッソの大家と、かたやナポリに根を張りイタリアを味わい尽くしたプロの料理人、おふたりのご意見はボルボーネ輸入開始のための大きな後押しとなりました。日本人の好みというような先入観に媚びず、身についたイタリアの味覚をピッツァから料理まで遠慮なく紹介してくださる寺床氏。ナポリにあっても必ずや人気店になるであろうタランテッラダルイジ。
どうかボルボーネのエスプレッソコーヒー共々、宜しくお願いいたします。